学生時代のテープが出てきた。デジタル化しておく。
無伴奏混声合唱のための抒情組曲第一番より Adieu
作詩: 北村初雄/作曲: 尾形敏幸
さようなら!
振返ると、まだ笑つて居る小さい仙女(フェアリー)、
日の中に眩(まぶ)しさうに眼をしかめて、
ぢつと此方(こちら)をむいて、まだ笑つて居る。笑つて居る。
さようなら!
振返ると、まだ笑つて居る小さい仙女、
樹の影に涵(ひた)つて居るあの白い額は花のやう。
風見のやうに此方を指ざす可愛い眼。
さようなら!
振返ると、まだ笑つて居る小さい仙女、
あの栗毛色の髪の毛が燃えて居る、燃えて居る、
お寺の屋根に巣を懸ける鴻(こうのとり)の様に真白に。
さようなら!
振返ると、まだ笑つて居る小さい仙女、
藁火(わらび)のあとの烟(けむり)のやうに、
何時(いつ)までも、何時までも、
続いてのぼる笑ひ声、あの柔らかい頬の波立ち様。
さようなら!
振返ると、まだ笑つて居る小さい仙女、
僕はもう堪(たま)らない、堪らない、もう一遍! さう!
薔薇の花が、胸の上で激しく、激しく揺(ゆす)れる。
大きい接吻(せつぷん)。小さい接吻。
さようなら! さようなら!